佐藤琢磨 インディカー
佐藤琢磨が、インディカー 第14戦 ポコノのレース週末を振り返った。

ポコノで行われたベライゾン・インディカーシリーズの500マイル・レースで、佐藤琢磨が走行した距離は5マイルに満たなかった。エアロバランスが恐ろしいほど大きく変化していた結果、そのとき3番手を走行していた佐藤琢磨のマシンはターン3でスピンし、ウォールに激突した。

素晴らしい成績をもたらすかもしれなかったレースは最悪の結果に終わったが、不幸中の幸いといえるのが、レントゲン検査を受けても佐藤琢磨の身体に何の異状も認められなかったことにある。なにしろ今週末は、雨のために途中で中断となっていたテキサス・モータースピードウェイのレースに参加しなければならないのだ。

「足首と左足が少し腫れています」 それでも、いつも変わらない前向きで楽観的な佐藤琢磨は、こんな言葉を口にするのも忘れなかった。「でも、テキサスでは左足を使わないでしょう!」

全長2.5マイルのポコノで事前に1日間のテストを実施していたAJフォイト・レーシングは、No.14ダラーラ・ホンダを準備万端仕上げていた。

「僕もチームもこのサーキットが大好きです。過去3年間、僕たちはずっとコンペティティブでした。成績はいいときもあれば悪いこともありましたが、僕たちのマシンはいつも好調で、ワクワクしながら週末を過ごしてきました」

「2週間前に行ったテストは順調でした。スーパースピードウェイでのマシンについてたくさん学ぶことができたので、とても充実したテストでした。そして僕たちのベースライン・セットアップはとても強力なように思えました」

フリープラクティスでは佐藤琢磨以外の3人のドライバーがアクシデントを起こしたため、No.14をつけたマシンの本当のポテンシャルを佐藤琢磨は引き出せなかった。それでも佐藤琢磨は予選に向けては自信満々だった。

「アクシデントが起きたことは、誰もがギリギリのところで走っている証拠でした。彼らは、きっとマシンが持つパフォーマンスの最後の1%を引き出そうとしたのでしょう。マシンのパッケージングは去年とよく似たものですが、ドームスキッドが導入された影響で、空力シミュレーションが非常に複雑になり、たくさんの作業が必要となりました。それに、空力のコンピューター・シミュレーションがいつでも正確とは限りません。実際にマシンを走らせて得たデータからエアロマップを作り上げることが本来は必要なのです」

「アクシデントがあったために、僕たちは予選用シミュレーションを実施できませんでしたが、僕たちのマシンはトップ5に入るパフォーマンスを有していると考えていました。220mphで走れる自信がありました」

結果的に、佐藤琢磨はそれを上回る成績を残した。彼は2014年にポールポジションを獲得したデトロイト以来となる予選結果を手に入れたのだ。

「僕のエンジニアであるラウル・プラドスがすばらしい仕事をしてくれました。ウォームアップの周回で、僕はマシンが絶好調であることに気づきました。予選結果は、僕たちの素晴らしいパフォーマンスを反映したものです」

インディ500のときと同じように、ホンダが手がけた2016年仕様エンジンとエアロパッケージは非常に強力だったが、最後のセッションではシボレー勢がだいぶ近づいてきた。

「レースセッティングでトラフィックのなかを走っているライバルたちは手強そうでした。僕たちは引き続きコンペティティブでしたが、アドバンテージはゼロも同然の状態でした。僕たちのチームに関していえば、あまりに予選に注力していたため、レースセットの仕上がりはまだ不十分でした。そのことは最初に走らせた段階で明らかになっていました」

「大きなタービュランスに巻き込まれると、ダウンフォースが減少してコーナー進入時のスピードが低下します。そしてマシンのダイナミクス特性が大きく変化するため、コンピューター・シミュレーションを行ったときとは車高の値が大きく変わってきます」

チームは車高が高すぎることに気づき、調整を行ったが、アンダーステアが過大だったためにフロントウィングの角度をより強くすることにした。

「これがレースで起きた間違いを引き起こす原因となりました。僕たちはフロントのダウンフォースをどんどん増やしていきましたが、レース後に判明したところによれば、このときすでにフロントウィングのストールが始まっていたのです」

日曜日は雨が降ったため、決勝レースは月曜日に延期された。この結果、プラドスとエンジニアリングチームはより長い時間をかけてマシンのセットアップを行えることとなった。その結論は、より大きなダウンフォースが必要というもの。そこでウィングの角度をさらに大きくしようとしたが、フロントウィングはもう調整できる範囲が残されていなかったため、より大きなガーニーフラップを取り付けることになった。

「ホンダ陣営のチームはみんな同様のものをつけていました」と佐藤琢磨。

「予選から決勝に向けては、エアロバランス(空力重心)を0.5%ほど後にずらすのが一般的です。ただし、僕たちは0.5%以上、後にずらすことを決めました。なぜなら、大きなガーニーフラップを使ったことがなかったので、安全を見積もってそうすることにしたのです。もちろんアンダーステアになる恐れはありましたが、そのときはアンチロールバーやウェイトジャッカーで補正できます。もっとも重要なのは最後のスティントなので、これでOKと判断しました。決勝中にマシンを仕上げようという考え方です」

ポールシッターのミカイル・アレシンは極端に早いタイミングで加速を始めたため、2番手以降はもうひとつの集団を形成してスタートラインを横切り、スタートは仕切り直しとなった。グリーンが提示されたオープニングラップ、ジョセフ・ニューガーデンがアレシンを抜いてトップに浮上、佐藤琢磨はアレシンを射程範囲内に捉えていたところで、アクシデントは発生した。

「僕は好スタートを切りました。(佐藤琢磨と同じ2列目グリッドからスタートした)エリオ・カストロネヴェスと僕はコース上でもコース外でもとても仲が良く、彼とだったら安心してレースができます。そのとき、僕はアタックもなにもせず、まったく危険を冒すことなくターン1に進入していきました。僕はフロントのグリップが非常に高い状態にあると考えていました。タイアが冷えているとそうはならないので、これはいいサインでした。フロントのロールバーを極端に硬いポジションにし、リアを柔らかく、そしてウェイトジャッカーで右寄りにしたクロスウェイトからも、いつも以上に注意を払ってスタートしたことが伺えると思います。ターン1はハイバンクによるサポートがあり、ターン2のキンクでは、グリップを使い切らない程度のカーブなので、マシンは安定していました」

「そしてフラットなターン3に進入し、横Gがもっとも大きくなるアペックス付近まできたところで、マシンは突然スピンしました。僕は完全にコントロールを失い、ウォールに激突したのです。修正するような時間は一切ありませんでした。事故後にエンジニアがデータを確認したところ、非常に大きな問題が判明しました。エアロバランスが、当初想定していた0.7%後方ではなく、反対に3.5%前方に移動していたのです。その程度の違いは大したことないと思われるかもしれませんが、オーバルレースではたった0.2%のずれが大きな違いを生み出すことになります。このため、リアタイアはまるでグリップしない状態だったのです。そのときはわかっていませんでしたが、最後のプラクティスで走った段階で、フロントウィングはすでにひどくストールしており、したがってフロントのダウンフォースを一定に保つためにフロントウィングの角度を少し寝かし、さらにガーニーフラップを取り付けたときは、ストールが解消されて巨大なダウンフォースを生み出し始めていたのです。しかも、さらにガーニーフラップを取り付けていたのですから、エアロバランスは大きくフロントに向けて移動することになります」

「予選結果とスタートがよかったうえに、チームのスポンサーであると同時にイベントのスポンサーでもあるABCサプライのたくさんのゲストが見守るレースだったので、とても残念です。もう、言葉にならないくらい悔しい思いを味わいました。レントゲン検査の後で、僕はレースを見ていましたが、ポコノではいつもそうなるように、今回も最後のスティントはとてもエキサイティングで、僕も一緒に走っていたかったと思いました。いずれにしても、今回もたくさんのことを学んだので、これをテキサスで生かしたいと思います」

6月に開催されたテキサスのレースは、佐藤琢磨が1ラップ・ダウンの状態でリスタートが切られる。

「エアロコンフィギュレーションに関しては、フィニッシュしたときとまったく同じ状態でスタートしなければいけません。ただし、僕たちにとって都合がいいことに、メカニカルなセットアップは変更していいことになっています。予選は絶好調だったものの、決勝のセットアップはあまりよくなかったので、おそらくとてもいい状況で戦えると思います」

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー